tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

経営者と政治家

2014年04月28日 14時34分53秒 | 経済
経営者と政治家
 4月26日、連合主催のメーデーに安倍総理がゲスト出演し、アベノミクスの一環として労使に賃上げを推奨したことを自画自賛したようでした。

 昨年このブログで、「賃上げさせたい男たち」(2013/10/15付)というのを書かせて頂きました。2014春闘では多分ある程度の賃上げが実現するでしょうが、それは基本的には、あくまで「労使の判断によるもの」ですから、安倍政権は決して『それは俺の業績だ』などと言わないでほしいと言いたかったからです。

 しかし結局は安倍さんもポピュリズムに毒された今時の政治家の一人だという事でしょうか、あからさまに「俺が賃上げしろと言ったから」とは言わないにしても、アベノミクスの成果の一環として誇示したかったのでしょう。

 それに引き換え、思い出されるのは第一次オイルショックの後の日経連会長桜田武の行動と発言です。

 第一次オイルショックで、原油の価格が4倍になり、単に値上がりだけでなく、日本として原油確保が難しくなるという恐怖感から消費者物価が20パーセント以上も急上昇し、毎日の生活必需品である「トイレットペーパー」と「洗剤」が多少大げさに言えば「瞬く間に」店頭から消えてしまったあのパニックをご記憶の方も多いと思います。

 第一次オイルショックの発生が1973年10月でした。「トイレットペーパー・洗剤パニック」も含めてのピークで26パーセントという急激な消費者物価上昇を受けて、1974年の春闘賃上げは32.9パーセントに達し、まさに輸入インフレの賃金コストプッシュインフレへの転嫁が始まろうとしていました。

 当時、労使問題の専管団体である日経連の桜田武会長は「こんなインフレが継続したら、数年にして日本は国際競争力を完全に喪失し、日本経済は壊滅に瀕する」との危機感を強め、原油価格上昇による輸入インフレの賃金インフレへの転嫁を阻止すべく日経連内に「大幅賃上げの行方研究委員会」を設置、高橋亀吉、金森久雄はどのエコノミストをアドバイザーにその年の12月には「報告書」を発表し、有名な「賃上げガイドポスト」の「来春闘は15パーセント以下、再来年度以降一桁」を打ち出しました。

 これが、今では古典となった「大幅賃上げの行方研究委員会報告」で、今の経団連が毎年出す「経労委報告」の正に第1号です。
 桜田武は、この危機感を日本人全体が共有することが大事と全国中央、・地域の労使代表、労使関係機関の責任者、ジャーナリスト、政治家、学者等オピニオンリーダー等に送付し、さらに自ら主要経済団体等に赴き、理事会などで報告書の趣旨を説明、日経連の全国組織を指揮、強力な全国キャンペーンを張っています。
 国民の関心も強くこの「報告書」は十数万部を売ったそうです。

 さらにその上に、当時春闘のパタンセッターだった鉄鋼業界のリーダー新日鉄の稲山嘉寛(当時日経連、経団連の副会長兼務)とも十分に諮り賃上げ正常化に奔走しました。
 そしてその結果、1950年春闘の賃上げは13.1パーセントに下がり、その年の消費者物価上昇率は10.4と落ち着き、賃金インフレの止まらない欧米諸国から「日本の奇跡」と評されることになりました。

 この経験は、第二次オイルショックでは十分に生かされ、日本経済は第二次オイルショックを完璧に乗り切って、エズラ・ボーゲルをして「ジャパンアズナンバーワン」を書かしめたというのは、皆様ご承知の通りです。

 ところで、1950年の日経連総会で、桜田武は春闘総括として「労使の良識の発揮により賃金上昇は安定、日本経済は健全性を取り戻した」と語っただけでした。

 これは、経営者と政治家の違いでしょうか、それとも何の違いによるものでしょうか。


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